クレイジー・ティンバー・エンジニアリング

日本一マニアックな木造建築・木質材料のブログ

釘接合部のせん断剛性のばらつき

いやあ、ブログかなりサボってしまいました。

空前のコロナブームでデスクワークが進みに進み、ようやくブログに手が回るようになりました。

ここ半年で普段の業務の中でもかなりの実験をやっておりまして、その中でも今年めちゃめちゃやったなあ、と言えるのが、いわゆるロケット型せん断試験です。

自分が実施したのは、ツーバイ材を用いた釘のロケット型せん断試験ですが、その剛性が非常にばらつくこと、大きいものでは倍半分ものばらつきがあります。

そのばらつきの原因は

①そもそもの母材のばらつき

②釘のばらつき

③ロケット型せん断試験の製作のばらつき

④主材-側材間の微小な隙間による剛性低下

⑤主材-側材間の摩擦

などが考えられます。

②は鋼材なのでほとんど考えられないだろうと思います。③はないものとして考えると、①・④・⑤が大きな原因でないかと考えました。

特に④は既存の研究・理論を応用することで計算できるので、例えば、微小な隙間が0mm~1mmまで変化することを考えパラメトリックスタディをしてみました。

そうすると、1mm程度の隙間ができたところで、ほとんど剛性が低下しないんですよね。1割も低下しないくらいです。

そうなると、剛性のばらつきは①か⑤の要因によるものと考えられます。

が、これは設計上非常に管理しづらいです。

設計で用いる数値としては、統計処理した下限値を用いるのが、現実的だということを改めて認識しました。

貫接合の耐力を高める工夫

貫接合は、柱にほぞ穴を設けそれに貫材を差し込むだけというシンプルな接合である。この接合部は施工精度がミソで、ゆるゆるだとスリップが生じ、大変形に至るまで耐力が発揮されないという短所がある。しかし、耐力を発揮し始めてからはかなり粘り強く、じわじわと耐力が上昇しながら変形し続けるという長所がある。そのため、カベワンGPでも多用されている接合形式である。

 

カベワンでは、スリップを防ぐために、施工直前までラッピングをして含水率の変化による乾燥収縮を防ぐなど対策をするチームもあるくらいである。また、ダボやビス・楔を併用すれば、スリップを防ぎつつ変形能力も稼げる非常に強い接合部となる。

 

もう一工夫として、貫は耐力壁の変形と共に柱材がくいこむことにより更なる耐力の上昇を期待すること出来る。そのためにはくいこみ代=貫の余長が重要である。では一体何mm余長があれば十分で、くいこみ効果が期待できるかというとそれについては不明で、私が耐力壁を設計する時にはカベワンのルールで出来るMAXの100mmで行っている。

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貫の余長とくいこみ効果

 

接合具の端距離

木質構造で接合具を使った接合をする場合、端距離に注意しなければならない。特に柱脚接合部などの繊維方向加力の時には注意が必要だ。端距離が極端に短い場合、端抜けせん断破壊が生じ耐力がかなり低い。端距離が十分に長い場合は、端抜けせん断破壊を生じなくなるが、割裂破壊が生じる。割裂破壊は木材の繊維を引きはがすような破壊で端距離をどんなに長くしても起きてしまうのでやっかいだ。しかし、割裂破壊の方が耐力が高いので端距離は十分に長くするべきだ。

 

端距離は実務設計上十分安全と見なせる7d以上(d=接合具の径)確保すべきであるとされているが、カベワンGPのように極限の設計を目指す場合には、樹種にもよるが、4d~5.5d程度確保すれば端抜けせん断破壊を防ぐことが出来る。

 

割裂破壊を防ぐためには、割裂方向と直交にビスを打つことが効果的だ。

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端距離の違いによる破壊の違い

ビス接合の縁距離

ビス接合をする際、縁距離や端距離を適切に取らなければ、耐力が発揮できない。日本建築学会の木質構造設計基準・同解説にルールが定められているが、これらは1932年にアメリカの研究者のTrayerが提案したものを基に、安全側に設定されたものである(らしい)。

 

縁距離について注目すると、繊維方向加力時は1.5d(d=ビスの径)以上確保することと定められているが、1.5dは最低限で荷重負担時に変形能力を付与したいのであれば、より大きく確保した方がよい。これは荷重負担時にビス穴から割裂が生じた時に縁距離が小さいと容易に曲げ変形を起こし、ビスが割裂で生じたスリットに滑落し耐力が急激に低下するためだ。

 

また、フルスレッドビスについては国内では歴史が浅く、縁距離・端距離・ビス間距離の設計ルールがない。私自身の経験則ではあるが、フルスレッドビスは打ち込みの際に縁距離30mm以上確保した方がよい。それ以下だと木材の表面に割れが生じ、期待した性能が発揮できないためである。

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フルスレッドビスの縁距離

 

梁の曲げ戻し効果=梁の抑え効果

耐力壁が地震のようなせん断力を負担した時、壁自体が転倒しようとし転倒しようとする力が柱の引き抜き力と言われている。

図の右側のように耐力壁に梁と添え柱が付いていると梁が柱の引き抜きを抑えようとしてくれる。それが梁の曲げ戻し効果と呼ばれている。

私自身が木質構造初学者だった頃、“曲げ戻し”という用語がピンと来なかった。そういう人は梁による引き抜きの抑え効果と読み替えてしまっても差し支えない。

梁の曲げ戻し効果が期待できる場合、柱の引き抜き力はそれがない場合に比べて約半分になる。

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梁の曲げ戻し効果

 

ビスの選定

ビス接合は、高剛性や高靭性を狙うために優れた接合だ。

柱ほぞにビスを打つ場合など、せん断接合として効かせる場合は、半ネジタイプのビス、引張接合として効かせる場合は、全ネジタイプのビスが効果的だ。半ネジタイプのビスは、欠損が少ない胴部(ネジ切りがない部分)を変形させて靭性を稼ぐことが出来るので、せん断面が胴部にかかるように設計するとよい。

 

半ネジタイプのビスであれば、シネジックのパネリードⅡ+、全ネジタイプのビスであれば同じくシネジックのパネリードXがオススメだ。樹種や繊維方向にもよるが、パネリードⅡ+であれば、1せん断面あたり約2kNのせん断強度、パネリードXであれば、1本あたり約10kNの引張強度を有するとして試算するといい。

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ビスの例(上:半ネジ、下:全ネジ)

 

 

多面せん断

木造建築における、木ダボ・ビス・釘・ボルト接合は基本的にはせん断接合として使用されている。鉄骨造ならハイテンションボルトを使って当たり前のように摩擦接合が実現するが、木材は粘弾性体であるため応力緩和が生じ摩擦接合の実現は難しい。

そんな、接合部での剛性や耐力を高めるために、多面せん断接合という技術がある。
接合具と母材のとのせん断面が多くなればなるほど、剛性や耐力が上昇し、理論上は2面せん断接合は1面せん断接合の2倍、3面せん断なら3倍・・・・と倍々で性能が向上していく接合方法だ。(実際には倍々にはならないが、性能は向上していく傾向がある)

下の図の接合は柱と雇いほぞがダボの4面せん断接合の例で、耐力壁ジャパンカップでもよく見られる強力な接合方法だ。柱や雇いほぞの端距離が十分に確保できるように設計するとよい。

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多面せん断の例